千葉地方裁判所木更津支部 昭和52年(ワ)50号 判決 1979年5月25日
原告
宗近俊孝
被告
新興土建株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し各自金一、八一五、八四〇円および内金一、五一五、八四〇円に対する昭和五一年一〇月八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分しその一を原告の、その一を被告らの各自負担とする。
四 この判決の主文一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
「被告らは各自原告に対し金五、五五二、八〇〇円および内金五、〇五二、八〇〇円に対する昭和五一年一〇月八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言の申立
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故
被告高橋雅男は昭和五一年一〇月七日午後四時三〇分ころ、普通乗用自動車(千葉五五ぬ二一六〇号以下「本件乗用車」または「被告車」という)を木更津市祇園方面から矢那方面に向けて運転し、同市太田七五三番地先交差点(以下「本件交差点」という)に進入したが、この際同交差点を同市中尾方面から清見台方面に横断しようとして原告が運転する自転車(以下「本件自転車」という)に被告車を衝突させ(以下これを「本件事故」という)このため原告は右大腿骨骨折の傷害を負つた。
2 責任原因
被告高橋は本件交差点に進入するに際しては同交差点の左方から交差点に進入する自転車その他のものの動行を注視すべき注意義務があるところ、右義務を怠たり左方不注視の過失により本件事故を惹起したものであり、被告新興土建は右事故当時被告高橋を雇傭し、同被告は被告会社の業務のために使用していたものであるから、被告高橋は民法七〇九条により、同新興土建は自賠法三条により、それぞれ原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
3 損害合計 五、五五二、八〇〇円
(1) 治療費 一、九四四、八〇〇円
原告は本件事故により事故当日の昭和五一年一〇月七日から同五二年二月一九日までの間入院治療を受けその間大腿骨々折のための観血的整複術の手術を受け合計二、四五一、六四〇円を支払い、さらに同五二年三月二三日から同年四月一〇日まで右手術により大腿部に埋没したプレートを取り出すための再手術のために入院し四九三、一六〇円の治療費を支払つた。
このうち自賠責保険から支払いを受けた一、〇〇〇、〇〇〇円を控除した一、九四四、八〇〇円を請求する。
(2) 入院中の雑費 六八、〇〇〇円
原告は本件事故により入院中一日少くとも五〇〇円の雑費を支出したので昭和五一年一〇月七日から同五二年二月一九日までの一三六日間の雑費合計六八、〇〇〇円を請求する。
(3) 付添看護料 三四〇、〇〇〇円
原告の前記入院中、付添看護を必要としたがその付添看護については原告の母完近良子がこれをなした。右付添看護の費用は一日二、五〇〇円を下らないから右入院期間一三六日間合計三四〇、〇〇〇円を請求する。
(4) 慰藉料 二、七〇〇、〇〇〇円
原告は本件事故により前記の如く入院し手術を受ける等したことにより著しく精神的打撃を蒙つたがこれを慰藉するには二、七〇〇、〇〇〇円が相当である。
(5) 弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円
原告は被告らに対し本件事故による損害賠償の支払いを求めたが被告らはこれに応じないので本件訴訟を弁護士三善勝哉に委任せざるを得なくなつたがこれに要する費用は五〇〇、〇〇〇円を下らない。
よつて原告は被告に対し右損害金合計五、五五二、八〇〇円および内金五、〇五二、八〇〇円に対する本件事故の翌日である昭和五一年一〇月八日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否ならびに抗弁
1 請求原因1項は認める。
2 本件事故に関しては被告高橋になんら過失はない。
即ち被告高橋は原告主張の日時に本件乗用車を運転し本件路上を北より南へ向けて時速約三〇キロメートルの速度で進行し、被告は右交差点入口手前二〇メートル位の地点から時速を二〇キロメートル程に減速して進行したが、被告高橋が見通し得る限りでは何れからも右交差点に向け進行する車両や自転車は発見できなかつたので同一速度でさらに進行し交差点入口五メートル位手前の地点に進行したときに初めて東西道路の本件交差点入口から東方約五メートル位の地点から道路中央よりやや左側を東から西に向い交差点に進入して来る原告の運転する二人乗りのスポーツ型自転車を発見した。この時被告高橋は本件自転車の進行する道路の東西道路の方が被告車の進行する道路の南北道路よりも明らかに狭いことから本件自転車が一時停止するものと思つたうえ、さらに本件自転車が交差点入口で停止せず本件自転車のハンドルを左に切つて被告車と同一方向に進行する態勢をとつたので本件自転車がそのまま進行すれば被告車と衝突する可能性は全くなきものと考えて前記速度のままで進行したところ本件自転車は被告車の僅か二メートル左斜方向からいきなり進路を変えて被告車の左前部に飛び込んで来て被告車と衝突したものである。
ところで本件交差点付近の道路は被告車の進行する南北道路が幅員約一一・一メートル、本件自転車の進行する東西道路が幅員約五メートルであつて東西道路の右側は一メートル位の土堤が続き雑草が生い茂り、左側もほぼ同様であつて、東西道路は左右の見通しが悪かつたものであるから原告は本件交差点に進入するに際しては一時停止して南北道路の交通状況を確認すべき注意義務があるにも拘らずこれを怠つて本件交差点に進入し然も前記の様な態様で被告車と衝突したものであるから被告としては本件自転車の動向を予測できなかつたものであり、かつ被告は如何に注意しても本件事故を避けられなかつたものであるから本件事故は所謂不可抗力であつて被告に過失はない。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生および被告会社が同高橋を本件事故当時雇傭していたことは当事者間に争いがない。
二 そこで先ず本件事故の態様につき判断する。
(一) 本件事故現場の道路状況、衝突の位置、同部位
(1) 成立に争いのない甲第一号証及び同第八号証によれば本件事故現場は南北に通ずる幅員約一一・一メートルの直接道路であり南から北へかけてはやや上り勾配であること(以下「南北道路」という)と、東西に通ずる幅員約五・四メートルの直線道路(以下「東西道路」という)が交差する交差点であり、右両道路にはいずれも歩車道の区別はなく右東西道路の隅は約三メートル角が削られていること、又南北道路は進行方向直線にかけては前方の見通しは良いが東西道路への見通しは良いとはいえず本件交差点から約一五メートル手前に至り初めて本件交差点の東西道路入口が見える程度であることが認められる。
(2) 衝突地点
成立に争いのない甲第八号証及び乙第一号証によれば衝突地点は被告車が東西道路を横断し終えた地点であることが認められる。
(3) 衝突の部位
前記甲第一号証及び同第八号証によれば、本件乗用車はその左前バンパー部分を本件自転車の前輪シヤフト部分に衝突させたことが認められる。
(4) 本件乗用車の制動距り
成立に争いのない甲第一号証及び同第八号証並びに乙第一号証によれば本件事故当時の天候は晴であり本件南北道路はやや上り勾配であることが認められ、被告本人尋問の結果によれば被告車は本件事故前には約二〇キロメートルの速度で進行していたことが認められるから右事実を総合すると本件事故当時の制動距りを測定するには簡易方式によるのが妥当であると解されるからこれによると被告車の制動距りは四メートルを超えないものと推認できる(S=V2/100=20×20/100=4 S=制動距り V=速度)
(二) 以上認定の道路状況、衝突地点、本件乗用車と本件自転車の衝突の部位、本件事故当時の制動距り等の諸事実ならびに成立に争いのない甲第一、同第八号証、原・被告各本人尋問の結果を総合すると、被告は本件南北道路を南から北へ本件乗用車を運転し本件交差点付近に至り時速約二〇キロメートルで進行し同交差点数メートル手前に至り本件自転車を発見し急制動を施したが及ばず右発見地点から約一〇メートル程先の地点(発見地点+車体の長さ四メートル)でこれに衝突させたこと、他方原告は後荷台に友人を乗せ東西道路から本件交差点に向けて進行したが同交差点で一時停止することなく南北道路に進入し被告車に気付きハンドルを左に切つたが及ばなかつたことが認められる。
右認定に反する被告の、本件自転車が本件交差点に進入した後、被告車と同一方向に向けて進行し突然ハンドルを右に切つて被告車の前に飛び込んで来た旨の主張はそれ自体合理性を欠くうえ、本件衝突地点、本件自転車と被告車の衝突の部位等に照らして採用しない。
そこで原告と被告高橋の本件事故における過失の有無およびその割合について検討する。
先ず被告高橋については本件事故当時は通常の進行速度より極端に速度を落し時速二〇キロメートルという最低に近い速度で南北道路を進行し本件交差点にさしかかつたというのであるから高橋は東西道路から歩行者ないし車両が進入して来るのを予測していたものと認められ、前記の如く高橋が原告を発見しこれに衝突する迄の距りは一〇メートル程であり被告車の制動距りが四メートル程であつたことを考慮すると、高橋は急ブレーキを踏みハンドルを右に切るなどすれば本件事故を防げ得たというべく、本件事故については事故発生を未然に防ぐべき自動車運転操作についての注意義務を怠つたものというべきである。
他方原告についていえば、原告が本件交差点に進入するに際し一時停止をして南北道路の左右を確認するかそれに準ずる速度で進入しハンドルを左に切るなどしていれば本件事故は未然に防げたものといい得るところ、本件南北道路の幅員は、約一一・一メートルで東西道路は約五・四メートルであり、南北道路はいわゆる優先道路に該るから原告としては本件交差点に進入するに際し一時停止をするかそれに準ずる速度で南北道路の左右の確認をなすべき注意義務があるにも拘らずこれを怠り然もハンドル操作が不充分となる二人乗りのまま進行したものであるから原告は本件事故に関し一時停止およびハンドル操作につき重大な過失があつたものといわざるを得ず、高橋が本件事故についてその自動車運転の操作につき過失があるにせよ、優先道路を進行する同人に非優先道路からの車両等の進入を予期せよと期待するのは酷であるから、本件事故に関してはその原因の大半が原告にあると言わざるを得ず、その過失割合は原告七、被告三の割合が相当である。
(三) 被告新興土建が本件事故当時同高橋を雇傭していたことは当事者間に争いがないから、他に特段の事情も窺えない本件においては右新興土建は自賠法三条により被告高橋の引き起した本件事故につき高橋と連帯して右高橋と同様の責任を負うものというべきである。
三 損害について
(1) 治療費について
成立に争いのない甲第二号証、同第三号証、同第四号証の一ないし八、同第七号証、原告法定代理人親権者母宗近良子本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当日の昭和五一年一〇月七日から同五二年二月一九日までの間入院治療を受けその間大腿骨々折による観血的整複術の手術を受け合計二、四五一、六四〇円を支払い(右の中、原告が一、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。)、さらに同五二年三月二三日から同年四月一〇日まで右手術により大腿部に埋没したプレートを取り出すための再手術のため入院し金四九三、一六〇円を支払つたことが認められる。
(2) 入院雑費について
原告は右入院中一日少くとも五〇〇円合計六八、〇〇〇円(500円×136日=68,000円)を支出したものと認められる。
(3) 付添看護料について
原告の母宗近良子は前記原告の入院中付添看護をなしたがその間の付添看護料としては、一日少くとも二、五〇〇円、合計三四〇、〇〇〇円(2,500円×136日=340,000円)を相当な支出としてこれを認める。
(4) 慰藉料について
本件事故による原告の受傷、入院期間その他諸搬の事情を考慮すると原告の本件事故による慰藉料としては二、七〇〇、〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。
(5) 弁護士費用について
前記諸搬の事情を考慮すると本件事故に関する弁護料としては三〇〇、〇〇〇円を相当と認める。
四 結論
以上、原告の損害は治療費一、九四四、八〇〇円、入院雑費六八、〇〇〇円、付添看護費用三四〇、〇〇〇円、慰藉料二、七〇〇、〇〇〇円、弁護士費用三〇〇、〇〇〇円の合計五、三五二、八〇〇円であるというべきところ右弁護士費用を除いた五、〇五二、八〇〇円については前記過失相殺の対象となるから結局原告の本訴において請求し得べき金額はつぎのとおりとなる。
5,052,800円×3/10+300,000=1,815,840円
よつて原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容しその余は失当としてこれを棄却し訴訟費用の負担は民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蜂谷尚久)